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メイ.サートン著 武田尚子訳『猫の紳士の物語』みすず書房1996年 サートンのユーモア感覚が遺憾なく発揮された、大人と子供のための動物小説の白眉。自ら望んで家出した猫のトム.ジョーンズこと毛皮の人は、窮境にあっても紳士のプライドを絶対に失わず、容易でない漂泊の日常にも「安逸の夢におぼれて独立を失うようなまねは絶対に禁物だ」と自戒する節操の持ち主である。この気位の高い猫が、二年の街猫暮らしに倦み、猫の人格の尊厳を理解し重んじてくれる人間との共生を求めてのさすらいのうちに、自らの詩才を発見し、力よりも優しさが上位だという哲学を打ち立てる。彼のユニークな日常訓は、ついに猫の十一戒に結実した。感じ、考える詩人猫の内心の表白は、笑いのうちに、動物と人間のかかわり方をも考えさせる。文句なく面白い。